経営
貸借対照表の見方|会社の歴史が見える「一枚の絵」として決算書を読む
最近、絵画に興味を持ち、絵を描いてみようと思っています。
絵を描くためには、まず対象をよく見なければなりません。
形を見る。
色を見る。
光を見る。
影を見る。
普段なら何気なく見過ごしているものでも、「これを描こう」と思って観察すると、それまで見えていなかったものが次々と見えてきます。
そんなことを考えているうちに、ふと思いました。
貸借対照表も、会社を描いた一枚の絵なのではないか。
今回は少し変わった角度から、貸借対照表の見方について考えてみたいと思います。
経営者は損益計算書を見ても、貸借対照表はあまり見ない?
決算書には、大きく分けて「損益計算書」と「貸借対照表」があります。
経営者の方と決算の話をしていると、どうしても注目されやすいのは損益計算書です。
「今年の売上はいくらだった?」
「利益はいくら出た?」
「去年より増えた?減った?」
やはり気になります。
一方、貸借対照表はどうでしょう。
現金預金、売掛金、棚卸資産、土地、建物、借入金、資本金、利益剰余金……。
数字がずらりと並んでいて、損益計算書ほど直感的には分かりません。
しかし、会社のことを深く知ろうと思えば、私はむしろ貸借対照表のほうが面白いと思っています。
なぜなら、
貸借対照表には、その会社がこれまで歩いてきた歴史が残っているからです。
同じ1,000万円の利益でも、会社の姿はまったく違う
たとえば、A社とB社という二つの会社があったとします。
どちらも年間の利益は1,000万円。
損益計算書だけを見ると、似たような会社に見えるかもしれません。
ところが貸借対照表を見ると、
A社には現預金が1億円あり、借入金はほとんどない。
B社には現預金が1,000万円しかなく、借入金が1億円ある。
これだけでも、二つの会社の姿は大きく違って見えます。
さらに、
売掛金が異常に増えていないか。
何年も動いていない在庫はないか。
回収できない貸付金は残っていないか。
過去に稼いだ利益は会社にどれくらい蓄積されているのか。
借入金によって何を購入したのか。
一つずつ見ていくと、その会社の輪郭が浮かび上がってきます。
貸借対照表にも「光」と「影」がある
絵画には光と影があります。
明るい部分だけを描いても、対象の立体感はなかなか出ません。
影があるから、光が分かる。
光があるから、形が浮かび上がる。
貸借対照表にも、光と影があります。
現預金が十分にある。
自己資本が厚い。
利益剰余金が積み上がっている。
こうした部分は、会社の「光」といえるでしょう。
一方、
借入金が多い。
売掛金が回収できていない。
過剰な在庫を抱えている。
資金繰りを圧迫する資産がある。
こうした部分は「影」に見えるかもしれません。
ただし、ここで注意したいのは、
影があるから悪い会社、というわけではないことです。
借入金が多い会社は悪い会社なのか
たとえば、貸借対照表に1億円の借入金があったとします。
「借金1億円」と聞けば、怖く感じるかもしれません。
しかし、その1億円を何に使ったのでしょうか。
赤字の穴埋めのために借り続けた1億円なのか。
それとも、新しい工場を建設するための1億円なのか。
同じ「借入金1億円」でも意味はまったく違います。
新工場への投資によって、今後の売上や利益を増やそうとしているのであれば、その借入金は会社が未来へ挑戦した痕跡ともいえます。
貸借対照表を見るときには、数字の大小だけで判断するのではなく、
「なぜ、この数字になったのか?」
まで考えることが重要です。
貸借対照表には会社の「時間」が描かれている
貸借対照表の面白いところは、会社の過去が積み重なっていることです。
損益計算書は、基本的には一年間の経営成績を表します。
今年いくら売り上げ、いくら経費を使い、いくら利益が残ったのか。
いわば「この一年」の記録です。
一方、貸借対照表は違います。
会社が稼いできた利益。
購入してきた土地や建物。
積み上げてきた現預金。
そして、まだ返済していない借入金。
それらが翌年へ、さらにその翌年へと引き継がれていきます。
創業から20年経った会社であれば、その貸借対照表には20年間の経営判断の痕跡が残っているわけです。
だから私は、
損益計算書が「今年の成績表」なら、貸借対照表は「会社の履歴書」に近い
と思っています。
貸借対照表は一枚ではなく、何年分も並べて見る
そして、貸借対照表を見るときにぜひやっていただきたいことがあります。
一年度だけを見るのではなく、数年分を並べてみることです。
3年前。
2年前。
前年。
そして今年。
すると、それまで止まっていた数字が動き始めます。
「現預金が毎年少しずつ増えている」
「売上は伸びているけれど、売掛金の増え方がそれ以上に大きい」
「借入金は増えたが、設備も増え、利益剰余金も積み上がっている」
「利益は出ているはずなのに、なぜか現金が減り続けている」
一枚の貸借対照表では分からなかったことが、何年分も並べることで見えてきます。
絵画というより、ここまでくると映画のフィルムに近いかもしれません。
会社がどちらへ動いているのかが見えてきます。
「きれいな貸借対照表」がいい会社とは限らない
では、どんな貸借対照表が理想なのでしょうか。
現預金がたくさんあって、借入金がなく、自己資本比率が高い会社でしょうか。
もちろん財務的な安全性という意味では魅力があります。
ただ、それだけで「いい会社」と決めることはできません。
無借金で多額の現預金を持っていても、何年も新しい設備や人材、新規事業へ投資していない会社もあります。
反対に借入金が多くても、次の10年を見据えて工場を建て、人を採用し、新しい市場へ挑戦している会社もあります。
つまり、貸借対照表を見る目的は、
「きれいか、汚いか」
を判定することではありません。
もっと大切なのは、
「この会社は、どこから来て、今どこにいて、これからどこへ向かおうとしているのか」
を考えることです。
税理士が見るべきものも、数字だけではない
税理士は数字を見る仕事です。
しかし、本当に見るべきなのは数字だけではないと思っています。
なぜ現預金が増えたのか。
なぜ借入金が増えたのか。
なぜ在庫が増えているのか。
なぜ利益が出ているのにお金が残らないのか。
その背景には、経営者の意思決定があります。
成功した判断もあれば、うまくいかなかった判断もあるでしょう。
それらが積み重なった結果が、現在の貸借対照表です。
貸借対照表は会社の「肖像画」
絵を描こうと思って物を見ると、それまで見えていなかったものが見えてきます。
リンゴを見ても、単なる「赤い丸いもの」ではなくなる。
光が当たっている場所。
影になっている場所。
机から反射した光。
微妙な色の違い。
そんなものが少しずつ見えてきます。
貸借対照表も同じです。
現預金。
売掛金。
在庫。
土地。
借入金。
利益剰余金。
一つ一つを単独で見れば、ただの数字です。
しかし、それらを一枚の絵として眺めると、一つの会社の姿が浮かび上がってきます。
私は、貸借対照表とは、
会社の「肖像画」のようなものではないか
と思います。
そこには会社が歩いてきた時間があり、経営者が積み重ねてきた意思決定があります。
そして、その肖像画は完成品ではありません。
会社が続く限り、毎年少しずつ描き変えられていきます。
だから決算のときには、利益がいくら出たかだけではなく、一度じっくり貸借対照表を眺めてみてください。
そして考えてみてください。
「今年、うちの会社はどんな絵になっただろう?」
さらにもう一つ。
「5年後、どんな絵にしたいだろう?」
そこから逆算して経営を考えることこそ、貸借対照表の面白い使い方なのかもしれません。